【ツアー報告】タカ渡る白樺峠とライチョウが棲む畳平 2019年9月14日~16日
(写真:ハチクマ 撮影:高木信様)
秋といえばタカの渡りを外すことはできないでしょう。今回訪れる長野県の白樺峠はタカ渡りのメッカとして知られていますが、実際にタカの渡りが観察可能なのは実質2週間ほどしかありません。またこの時期はなかなかほかに良い探鳥地がないため、よりタカの渡りにスポットが当たりやすい状況です。このツアーでは他にも畳平を訪れてライチョウなどの高山鳥、そして宿泊地の乗鞍高原周辺では渡り途中の小鳥類も観察するなど、秋の乗鞍高原周辺をさまざまな観点からお楽しみいただけるようにしています。ただメインのタカの渡りは天候に大きく左右されるため、とにかく天気が重要です。毎回のように天気には泣かされてきましたが、今回は幸いにも最終日の天気予報がはっきりしないものの2日間は天気が良いとの予報の中、出発することができました。
14日、早朝の新宿駅前はどんよりと曇っていましたが、長野県の天気予報は晴れということでひとまず安心して出発することができました。3連休の初日ということもあって混雑していましたがトラブルなく進み、甲府駅を過ぎた頃からは空は快晴に変わっていました。松本駅到着後は現地集合のお客様と合流し、その後は専用バスにて出発しました。そもそも初日は畳平に行く予定ではありましたが、ここ数日タカがほぼ飛んでいないこと、また今日が晴れていたことから予定を変更して白樺峠に行くことにしました。途中道の駅で休憩後にタカ観察に使用するトラベルイヤホンを配布し、その後は白樺峠タカ見の広場の駐車場まで移動して観察機材準備に取り掛かりました。空を見上げると数羽のハチクマが飛び、午後からピークが来るのではないかと想像を掻き立てられました。ここからは山道をゆっくりと登り、タカ見の広場到着後はそれぞれ観察を開始していただきました。我々のツアーでは海鳥観察時に使用して大好評をいただいているトラベルイヤホンを使用することから、どこから観察していただいてもガイドの声が直接耳に届くことから確実にタカの出現状況を全員で把握することが可能です。おおよそ13:00から観察を開始し、周囲からはコガラの声が聞こえていました。すっきりとした青空の中、13:30には最初のハチクマが飛び、13:35には2羽のノスリが旋回飛翔してくれました。13:40にはかなり低い位置をハチクマの♀が飛び、続けてハチクマの♂が飛び、タカ見の広場がどっと沸きました。13:45には10羽ほどのサシバが低く通過し、同時にハリアオアマツバメがスイスイ飛翔しました。そして13:50にはこの日最初のサシバのタカ柱が見られ、その中にはツミの姿もありました。14:00にはなぜか2羽のホシガラスがパタパタと羽ばたきながら飛び、14:05には3羽のツミが同時に頭上を旋回飛翔してくれました。14:10にはサシバとハチクマが混じったタカ柱が立ち、これを機に次から次にサシバのタカ柱が出現して下を見る時間もないような状況になりました。旋回しながら上昇したサシバたちは我々の頭上高くで直線飛翔に入ると川の流れのように流れて行き、まるでタカの川といった光景でした。14:45にはサシバに混じるチョウゲンボウが飛び、いよいよサシバが途切れた16:00にはミサゴが飛翔しました。そしてこの日は予想よりも長い探鳥になり16:30に観察を終了しました。そしてこの日は夕食後にタカ識別講座などを行い復習、そして翌日の予習をしていただきました。
15日、天気予報は晴れでしたが早朝05:00に外を見ると意外にも曇っていましたが、05:45からの早朝探鳥時には空は見る見る明るくなってきていました。ひとまず宿周辺を歩きまずは枯れ木で鳴いているジョウビタキの♀が見られ、その後はホオジロ、キセキレイ、川ではカワガラスの姿がありました。この日はカケスの姿が目立ち、あちらこちらから声が聞かれ、ある場所ではヒガラ、コガラ、ヤマガラ、シジュウカラの混群に出会いました。よく見るとオオルリが混じっているようで、♂の若い個体、そして♀が混じっていました。その後はイカルの群れに出会うことができたほか、ビンズイ、モズ、そして早朝から飛ぶハチクマの姿を見て07:30から朝食をいただきました。予想ではこの日の方がタカが飛ぶだろうと思っていたことから朝食後は白樺峠タカ見の広場に向かい、前日同様に16:00までの予定でタカ観察を開始しました。この日も幸いすっきりとした青空でしたが、やや風があるのが気になりました。09:45には早速10羽ほどのサシバが高い位置を飛翔し、09:50にはまたサシバがタカ柱を作りながら渡っていきました。前日は比較的低い位置を飛翔したことから見ごたえがありましたが、この日はタカの飛翔位置が高く、やや右の尾根側に向かう傾向があるようでした。ただタカの動きは活発で09:55にはハチクマの♂と♀が低い位置を通過し、10:00にはハチクマとサシバが舞い上がったかと思うと、その中にトビが混じっていて盛り上がりました。10:10には独特の姿の暗色型のハチクマ幼鳥が通過し、10:25には数羽のサシバが舞い上がったかと思うと、その中に珍しい暗色型個体が1羽混じっていました。10:30にはサシバが後方から飛んできて、11:00には15羽ほどのサシバが高い位置を渡って行きました。11:20には後方を3羽のハリオアマツバメが飛び、11:30にはこの日もホシガラスが飛んできて盛り上げてくれました。12:05には10羽ほどのサシバがタカ柱を作りながら上昇し、12:10にはなんとハシブトガラスが登場して驚かされました。12:20には再び上空にサシバとハチクマのタカ柱が立ち、12:30にはまたまたトビが飛び、13:00にはこの日最大となるサシバ、ハチクマ、ツミ、ノスリが混じったタカ柱が現れ、次々に流れるように渡って行くタカたちの姿に歓声が上がりました。その後、13:15、13:20には2羽のホシガラスが飛び、13:30には珍しく左側のシラカバ林の上に20羽ほどのサシバのタカ柱が出現しました。その後は連続してサシバの渡りが見られ、15:00には再びサシバの暗色型が飛び、16:00に観察を終了しました。この日は飛翔位置がやや高かったものの前日に負けない壮大なタカ渡りを堪能することができたのでした。宿に向かう途中には早朝にエゾビタキが見られなかったことから乗鞍高原に立ち寄って探鳥しましたが、残念ながらエゾビタキの姿はありませんでした。
16日、この日も同様に朝から晴れ間が出る中、05:45から探鳥を行いました。この時期の主役であるエゾビタキが見られていないことから集中的に探してみることにしました。ひとまず乗鞍高原方面に歩くとホオジロの姿があり、この日もカケスの姿が目立ちました。さらに進むとオオルリの若い♂が針葉樹の梢でさえずりに似た声で歌い、よく見ると付近には♀の姿もありました。バスターミナル付近ではヒガラ、コガラ、シジュウカラ、コゲラ、エナガの混群に出会うことができ、その中に混じるエゾビタキをようやく見ることができましたが、僅かな時間で去って行ってしまいました。ただ、さらに進むと再びエゾビタキの姿があり、付近にあったミズキの実にはオオルリの姿もあり、結果的には2羽のエゾビタキ、2羽のオオルリに出会うことができました。また宿に戻る途中にはゴジュウカラが間近に見られたほか、エナガの群れに出会うこともでき、思いのほかじっくりと観察することができました。そして最後の最後には飛び回るイカルの群れ、木に止まるアカゲラの姿も見られ、この日も07:30から朝食をいただきました。朝食後は初日に行く予定だった畳平に向かいました。快晴の日にはライチョウはハイマツに隠れてしまうことから観察が厳しくなるのですが、畳平に向かう途中からは見る見る視界が悪くなり、到着時には周囲は霧に包まれていました。到着後は服装などの確認のため15分ほど時間をとり、その後は霧が出て視界不良のため、これはチャンスとばかりにライチョウを探しに向いました。ガレ場を歩くやや厳しい道のりでしたが、これを逃すとまず出会えないと思ったことからみなさんにはがんばっていただきました。すると予想通り霧の中から数羽のライチョウが姿を現し、そのうちの3羽がじっとしていてくれました。しばらく観察していると去って行った2羽もノコノコ歩いて姿を見せてくれたことからじっくりと観察することができ、気が付くと空は青空に変わり、それに合わせるようにライチョウたちはハイマツに隠れてしまいました。目的のライチョウに出会えたことから一旦バスまで戻ることにしましたが、途中ではノビタキ、カヤクグリに出会うことができました。その後は昼食をはさんで2か所を巡り、ハイマツ帯では餌を探すカヤクグリ、そして秋はとにかく見やすいホシガラスを堪能してツアーを締めくくりました。
今回はツアー前の数日でほぼタカが飛んでいなかったことから急遽予定を変更して初日に白樺峠に行ったことが結果的には正解で、この秋最多となる1410羽のタカたちの渡りが見られ、翌日にも1065羽のタカが渡り、2日連続で4ケタのタカが渡るという幸運がありました。特に午後からの時間帯は水を飲むヒマもないような状況になり、連続して出現したタカ柱、そしてまるで川の水が流れるかのように飛翔するタカたちは見事でした。晴れたからといって必ずタカが渡るというわけでもないのでまさにラッキーとしか言いようがありません。また最終日は初日に行くことができなかった畳平に向かい、幸い霧が出たことからライチョウに出会うことができ、秋らしく小群で見られたことは印象的で、ホシガラスの姿を堪能できたことも幸いでした。また乗鞍高原周辺はやや小鳥類が少ない印象でしたが、オオルリの若い個体やエゾビタキ、イカルの群れ、アカゲラ、カワガラス、カケスなどが見られました。なかなかタイミングが合わず何度も残念な思いをされたお客様もいらっしゃったようですが、タカの渡りは何度もチャレンジしていただくほかありません。今回良いシーンが見られましたがぜひ今後も秋はタカの渡り観察にお出かけください。この度はご参加いただきましてありがとうございました。
石田光史