【ツアー報告】タカ渡る白樺峠とライチョウが棲む畳平 2024年9月14日~16日
(写真:ハチクマ 撮影:日比隆様)
春から続いたツアーの繁忙期が8月下旬で一旦終わり、その後はスケジュール的には国内バードウォッチングツアーは夏休み状態になっていました。ただいよいよこの時期、秋恒例のタカの渡り観察ツアーから再スタートとなります。秋にしか大規模なタカの渡りは観察できないことから日本各地でツアー企画していますが、いずれも観察可能な期間が短く、しかも天候の影響を大きく受けるためリスクがあるのがデメリットではありますが、タイミングが合えば信じられないような光景を見ることができます。今回訪れる白樺峠では長らくツアー企画してきましたが、どうもこの時期は予報が難しいらしく、毎回予報が各社バラバラであることが普通なため、その日になって予定を変えたりしながら対応してきました。過去には晴れ予報が雨になってしまったり、雨予報が晴れに変わって見事な渡りが見られたこともあり、なにかと思い出が多いツアーです。白樺峠の特徴はなんといっても個体差が激しいハチクマのさまざまな個体が見られること、サシバのタカ柱が見られる可能性が高いことで、観察地が山間部の峠であることから、運が良ければイヌワシ、クマタカといった大型猛禽類に出会える可能性があることでしょう。またわずかな距離にある乗鞍高原や畳平でも魅力的な野鳥が見られることから「タカ渡り」「乗鞍高原の渡り中の小鳥」「畳平の高山鳥」をセットにしました。また以前は乗鞍高原の温泉宿に宿泊していましたが、コロナ以降需要が高まっているシングル部屋が利用しやすいよう松本駅前のホテルに連泊することにしました。今回は直前に台風13号が発生してしまい心配でしたが、進路は大きく西に逸れました。ただその影響があるのか、前週まで晴れマークが並んでいたにも関わらず、直前になって天気予報が悪いほうに変ってしまいました。
14日、前日に松本駅前までやってきましたが、東京を出る時からとにかく秋とは思えない真夏のような暑さで驚きました。天気予報もコロコロ変わり、予定を立てるのにも苦労しましたが、初日は各社晴れで一致していこと、また翌日からの天気がはっきりしないことから、この日は予定を変更して白樺峠に行くことにしました。ご集合後は予定変更を皆様にお伝えして機材の準備をしていただき、その後はバスにて乗鞍高原バスターミナルを目指しました。移動中のバス車内にて白樺峠のタカの渡りの特色、そしてサシバ、ハチクマの成鳥、幼鳥、雌雄の識別ポイントについておさらいしながら進み、到着後は熱中症対策のため、飲み物を購入していただいてから、スーパー林道を進み、白樺峠駐車場に到着後はそれぞれ20分ほど山道を歩いて白樺峠タカ見の広場に移動しました。この日の観察者数はそれほど多くはなく、比較的ゆったりと観察ができる状況でしたが、ここでもその暑さには驚くばかりでした。早速、13:10に5羽のサシバが沸き上がって旋回し、13:20にはふらっと現れた1羽のサシバが頭上を通過していきました。13:25には眼下から沸き上がったサシバ成鳥オスが上昇し、上空を低く通過していきました。そしてよく見るとサシバを追うように1羽のツミが深い羽ばたきをしながら飛んでいきました。13:35にはサシバとハチクマが舞い上がりましたが、まっすぐ右へ流れていってしまいました。13:45にもサシバの成鳥が飛び、直後の14:20にはどんどん接近してきたノスリが舞い上がってゆっくりと通過していきました。14:30にも再び眼下から数羽のサシバが舞い上がって通過し、これが呼び水になったのか、14:45には20羽ほどのサシバが我々の頭上低く次々に通過し、それを追うように14:50にも15羽ほどのサシバが同様に低く通過していきました。ほとんどが成鳥でしたが幼鳥が2羽ほど混じっていました。さらに15:00には眼下の森から次々に舞い上がったサシバが山を背景に飛び、15:05にはハリオアマツバメがバタバタとした羽ばたきで通過していきました。15:10にはハチクマとサシバが混じって眼下の森から沸き上がって、右に向って通過していきました。この時、ようやくはっきりとハチクマ成鳥オスをしっかり見ることができました。ただ、15:30頃からは小雨が降り出し、一時的に雨足が強まりました。その後、一旦、雨は上がりましたが、再び雨足が強まってしまったため避難所で待機し16:30に雨の止み間を見て下山して、ホテルに向いました。この日はとにかくサシバが多く、公式発表はサシバ143羽、ハチクマ68羽、総数241羽とのことでした。
15日、この日は朝になっても天気予報が各社バラバラでしたが、早朝から松本市内は晴れ間が見えていました。出発時も晴れ間が見えてはいましたが、乗鞍高原方面を見ると霧がかかっているのか、山々の姿は見えていませんでした。乗鞍高原に到着すると畳平は見えず、小雨も落ちてきていたことからこの日は畳平に向うことにしました。エコーラインを進むと、早くも一部でナナカマドの紅葉が見られ、ハイマツ帯に入るとホシガラスが飛び回っていました。ただ畳平到着直前からは残念ながら雨、霧になってしまい、駐車場到着後は各自準備に取り掛かっていただきました。この頃には一時的に空が明るくなって視界も良くなってきていました。ただ登っている途中からは雨が強まったり弱まったりを繰り返すようになり、山頂では風も強くなってきました。ひとまず風雨を避けられる避難小屋で待機していただき、周辺を見てはみましたがライチョウの姿がなかったことから、下山して一旦、昼食の時間としました。ただ戻る途中ではガレ場を歩くイワヒバリが見られ、ハイマツ帯ではホシガラスが飛び回っていました。1時間ほど時間をとりましたが、結果的には視界不良と雨がおさまらないことから、この日は乗鞍高原まで戻ることにしました。乗鞍高原もまだまだ小雨が降ってはいましたが、渡り中の小鳥類を探してみました。最初の場所ではたまたま雨足が強まったせいか、森の中からコガラ、ヒガラの声がかすかに聞こえたのみでしたが、次の場所では数羽のカケスがけたたましく鳴き、「ガーガーガー」とホシガラスの声が聞こえたため見てみると、松の木に止まっていました。この個体はかなり長い時間をかけて松ぼっくりをつついていたことから、しばらくの間、観察することができました。その後は少々時間があったことからもう一カ所見てみることにしました。ここでは最近、信州では夏鳥になっているジョウビタキが見られ、一緒にメジロも見られました。またカラマツのてっぺんに止まっているサメビタキが見られ、一旦姿が見えなくなってしまったことから、反対側に行ってみると、ここでは1羽のエゾビタキの姿があり、しばらく観察しているとさらにもう1羽が見られ、その後はサメビタキ、キビタキのメス、キビタキのオス、そしてエナガの群れに混じっているオオルリを見られたお客様もいらっしゃいました。そして最後は乗鞍高原のビジターセンターに立ち寄ってからホテルに向いました。
16日、この日も現地の天気予報は各社バラバラでしたが、外を見ると乗鞍高原側にはまだまだ雲がかかってはいたものの、松本市内は空がみるみる明るくなってきていました。やや半信半疑ではありましたが、直食後はひとまず乗鞍高原に向ってバスを進めることにしました。途中、空は次第に明るくなってきて青空が増えてはきましたが、白樺峠方面はまだまだ雲がかかっていたことから、到着後は昨日と同じルートを歩いてみることにしました。まずは数羽のカケスが飛び回り、カラマツの枝に止まって珍しく姿をしっかり見せてくれました。ただこの日はヒタキ類の姿はなく、天気も予想以上に回復してきたことから白樺峠駐車場に向かいました。到着後は各自、観察に必要なものやお弁当、トラベルイヤホンの受信機をもって歩きはじめ、おおよそ20分ほどでタカ見の広場に到着。後はそれぞれお好きな場所から観察をしていただきました。10:00頃にタカ見の広場に到着すると稜線にはまだまだ低く雲がかかっていて、上昇気流に乗って霧が吹きあがってきていました。早速、霧の中を3羽のツミが旋回しながら飛び、10:15には霧の中から突然、1羽のサシバが飛び出して上空を通過していきました。10:25には眼下から舞い上がった3羽のハチクマが左のシラカバ林の上を通過し、10:30にはハチクマのオス、10:40には今度はメスが我々の頭上低く飛んでくれました。10:50には1羽のアオバトが通過し、11:00にはハチクマのメスが頭上低く飛んでいきました。また同時に3羽のツミが後方で旋回飛翔していました。11:05にも再び眼下から舞い上がった3羽のハチクマがやや左のコースを通ったものの、しっかり見ることができ、11:10にもハチクマのオス、メスが頭上低く飛んでいきました。11:15にも3羽のハチクマが舞い上がって左のコースを通過し、11:20には再び3羽のツミが上空高く旋回飛翔していました。11:30にはハチクマのオスとメス、そして珍しく幼鳥がかなり高い場所を流れるように通過し、11:45には白樺峠ではかなり珍しく1羽のチゴハヤブサが我々の頭上をゆっくり旋回飛翔してくれました。11:55にはやや左側から沸き上がったハチクマの暗色型幼鳥が低く頭上を通過し、12:25にはハチクマのオスが頭上低くゆっくり旋回飛翔して歓声が上がるほどでした。12:35、12:55にも次々にハチクマが低く通過し、13:00には4羽で舞い上がったハチクマがまたまた頭上を通過していきました。13:10にはノスリがゆっくりと通過し、13:15には3羽で舞い上がったハチクマが頭上を通過し、そのうちのメスが旋回飛翔してくれたため、じっくりと観察することができました。13:40にはこの日初となる9羽のサシバのタカ柱ができ、13:50には今度はハチクマだけのタカ柱ができて空高く旋回飛翔をしていました。その後はタカの渡りは一旦、止まってしまい、タカ見の広場は静かになってしまいました。ただ14:30には眼下の森から1羽のサシバが舞い上がり、14:50、15:00にも数羽のハチクマが次々に頭上高く通過していきました。ただ15:05には後方の雲がどんどん厚くなってきてしまい、小雨が落ちる時間帯もありました。そして予定よりも少々早い15:20に下山して駐車場で荷物整理をして15:45に松本駅に向けて出発しました。この日はとにかくハチクマばかりで頭上低く飛んでくれる個体が多かったことから印象的な1日になり、公式発表はサシバ33羽、ハチクマ133羽、総数199羽とのことでした。
そもそも天候が安定しない時期であることもあって、過去、台風直撃や天候悪化などにより予定変更が頻繁に発生するなど何かと問題が多いツアーですが、今回も天気予報に翻弄される状況になってしまいました。ただ初日は晴れ間がある中、次々に頭上を通過していくサシバの飛翔を堪能することができ、最終日はハチクマが次々に頭上を旋回するという夢のような時間を過ごすことができました。数こそ少ないながらも見応えがある典型のような状況でした。ただ2日目は逆に天気予報が悪いほうに外れてしまい、想定外の大雨、強風もあってライチョウ、カヤクグリに出会えず残念でした。ただ乗鞍高原では小雨の中ではありましたが、エゾビタキ、サメビタキ、キビタキ、オオルリ、ジョウビタキ、カケス、ホシガラスが見られ、少ないながらも秋の渡りの小鳥たちに会うことができました。ここ白樺峠にはすでに15年以上来ていますが、タカの渡りは何度来ても全く同じ光景はなく、毎回毎回新しい感動を与えてくれます。今後も秋はタカの渡り観察におでかけいただけましたら幸いです。この度はご参加いただきましてありがとうございました。
石田光史