【ツアー報告】タカ渡る白樺峠とライチョウが棲む畳平 2021年9月18日~20日

(写真:ハチクマ 撮影:坂東俊輝様)

夏には一旦お休み状態となっていた国内バードウォッチングツアーですが、いよいよこのタカの渡りから再スタートとなります。秋恒例となっているタカの渡り観察は各地で企画していますが、いずれも観察可能な期間が短く、天候の影響も相まってタイミングが非常に難しいのです。今回訪れる白樺峠は個体差が激しいハチクマのさまざまな個体が見られることが最大の特長で、サシバのタカ柱が見られる可能性が高く、観察地が山間部の峠であることから、運が良ければイヌワシ、クマタカといった大型猛禽類に出会える可能性があることも魅力です。またわずかな距離にある乗鞍高原や畳平でも魅力的な野鳥が見られることから「タカ渡り」「乗鞍高原の渡り中の小鳥」「畳平の高山鳥」をセットにし、宿泊は需要が高まっているためシングル部屋利用、さらには3連休の渋滞を避けるために往復JR特急利用としています。タカの渡りは天候に大きく左右されるため天気予報のチェックが欠かせませんが、今回は出発前に発生した台風14号が接近する中での出発となってしまいました。

18日、数日前に発生した台風14号は早々に日本を通過するだろうと期待していましたが、残念ながら九州接近と共に速度を落としてしまい、結果的にはこのツアーの出発日に合わせるかのように関東甲信越に接近してきてしまいました。そのため出発地の新宿駅は早朝から激しい雨でアナウンスも聞きとりづらいほどでした。出発後はしばらく雨が続いていましたが、甲府を過ぎたあたりからは雨は止み、次第に空が明るくなってきたかと思うと、到着した松本駅では一部に青空が見えるほど回復していました。このツアーでは3日間のうちの1日を畳平での探鳥としていますが、タカの渡りは晴れているほうがよく、畳平の特にライチョウは天候が悪いほうが見やすいといった特徴があることから天候の悪い日に合わせて畳平に行っています。今回は天気予報を見る限りでは2日目、3日目の天気予報が良いことから、これはもう今日行くしかないと決め、松本駅からはひとまず乗鞍高原を経由して畳平に向かいました。この時期、畳平にむかう乗鞍スカイラインはマイカー規制中のため、個人で行くにはバスへの乗り換えが必要ですが、我々は専用バス利用のため面倒な乗り換えもなく、また緊急時にバス避難、待機ができることも高山帯では有利です。道を進むと雨は小降りながらも次第に霧が出始め視界不良に。駐車場に到着すると霧雨でしたがなんとか観察が可能なレベルだったことから各自準備をしていただいてから歩き始めました。この日は天候のせいもあってか登山客、観光客は全くおらず、そのため大黒岳に登らなくてもライチョウが見られる可能性が高いと判断して、ひとまず駐車場付近を探してみました。秋に見やすいホシガラスがいきなり目の前でハイマツの実を集める様子が見られ、さらに歩くと道端からイワヒバリがノコノコ歩いて姿を現しました。そしてさらに歩くとなんと道端で草をついばむ4羽のライチョウの群れに遭遇することができ、霧雨や時には強風が吹く中ではありましたが、しばらくの間、間近に観察することができ、見ているとホシガラス、イワヒバリ、カヤクグリも出そろってくれたため2時間ほどで観察を終えることにし畳平を後にしました。道を下っていく途中には雨は上がり、見事な虹がかかってきました。乗鞍高原までくると雨はすっかり上がり、まだ時間があったことから徒歩探鳥を行い、盛んにフライキャッチを繰り返すノビタキ、枯れ木に止まるコサメビタキ、そしてコゲラとアカゲラが同じ木に止まっている様子などを観察してこの日の探鳥を終えました。

19日、早朝、外に出ると待ちに待った快晴。朝食後はひとまずバスにて乗鞍高原を目指しました。ただこの日は早い時間からはタカは飛んでこないと判断し、まずは乗鞍高原で探鳥を行いました。この日は前日とは違う道を歩いてみました。今回はどうにもタイミングが悪かったようで残念ながらヒタキ類に出会うことはできませんでしたが、珍しく梢にじっと止まってさえずるゴジュウカラ、松ぼっくりをつつくヒガラ、その後は昨日訪れた畳平の景色を右手に眺めながら、シジュウカラ、ヒガラ、コガラの混群を見ながら歩き、その後は白樺峠に向かい、11:00に快晴の白樺峠タカ見の広場に到着。さすがは3連休ということもあり人は早くも3ケタかという大盛況でした。我々の探鳥では大声を出すこと抑止すること、また確実にタカの出現を皆様にお伝えする意味から、海鳥観察で活用しているトラベルイヤホンを使用して観察をしています。11:15、早くも10羽ほどのサシバが谷間から湧き上がって右側の尾根に消えました。11:30には今度は15羽ほどのサシバが同じように湧き上がると、今度は我々の前を横切るように左側の谷へ飛んで行きました。11:40にはハチクマのメスとノスリが同時に頭上を通過し、12:15には再び15羽ほどのサシバが谷間から湧き上がって見事な飛翔を見せてくれました。12:20にもサシバが舞い上がるも右側の谷に消え、なかなか頭上にはやってきてくれませんでした。ただ12:30には左寄りのピークから湧き上がった10羽ほどのサシバが旋回上昇し、ようやく低く頭上を通過したためタカ見の広場にこの日最初のざわめきがあり、同時に間近に突然現れたサシバの幼鳥が旋回上昇してくれ、さらにざわめいたのでした。12:40にも再び10羽ほどのサシバが旋回上昇したのち、我々の頭上を通過し、12:50には1羽で舞い上がったハチクマのメスがやや右よりながらも低く頭上を通過してくれ、再びタカ見の広場がざわめきました。13:15にはやや風が出てくる中、13:20にはサシバがポツポツと出現し、やや高いものの我々の頭上を通過していきました。13:30頃からも引き続いてサシバが現れるものの風のせいか、低く右よりのコースを飛ぶ群れが増え、13:40にはさらに強まる風の中を、稜線よりも低く一直線に右よりにスピードを上げて通過するサシバが増えました。14:15にはこの日最大となる20羽ほどのサシバが旋回上昇しますが、この群れも右よりのコースを飛び去り、15:00には白樺峠では珍しくチョウゲンボウがヒラヒラと頭上にやってきました。15:05にはこの日、時々見られていたツミがサシバにモビングする様子が見られ、15:15にも15羽ほどのサシバが通過していきました。そして16:00には1羽のトビが出現すると共にこの日の探鳥を終えることにし、16:30に白樺峠駐車場を出発して松本市内のホテルに向かいました。この日の公式記録はサシバ1813羽、ハチクマ218羽、全体の合計は2143羽とのことでした。

20日、この日も朝になっても天気予報は各社バラバラで悩ましいところでしたが、ひとまず快晴。私的な予想ではこの日がピークと読んでいたので朝食後はさっさと白樺峠に向かう予定でしたが、昨日の成果が今一つだったことからまずは乗鞍高原へ。この日は時間の関係から短時間探鳥でしたが、最近信州では繁殖しているジョウビタキの幼鳥がじっくりその姿を見せてくれ、木の実にやってきているコガラ、さらに初夏のような陽気に誘われてヒガラがさえずっていました。最後には川でマガモ、2羽のカワガラスが見られたものの、この日も残念ながらヒタキ類の姿はありませんでした。その後は急いで白樺峠に向かい、この日は10:00に白樺峠タカ見の広場に到着。昨日ほどではないもののこの日もなかなかの人出で盛況といった感じ。この日はやや風がある中、早速ツミが頭上を旋回し、見ているうちに1羽、1羽と増え、結果的には4羽のツミの飛翔から観察がスタート。10:20には乗鞍高原で出会うことができなかったエゾビタキがカラマツのてっぺんに止まってくれました。10:30には対岸の稜線から現れたクマタカが頭上を通過し、10:35にはノスリが現れて頭上を飛翔しました。10:40には左側の稜線から現れたハチクマ暗色型が通過し、続けてハチクマの幼鳥とメスが頭上を旋回してくれ、タカ見の広場がざわついたのでした。10:55には再びツミが独特の深い羽ばたきで頭上を飛び、11:05にも再び4羽のツミが青空を背景に見事な飛翔を見せてくれました。11:10には10羽ほどのサシバが沸き上がり、11:15にはハチクマ幼鳥が通過し、同時に対岸の稜線に2羽のクマタカが現れ、両翼を持ち上げたような独特のスタイルで飛翔しました。11:25にはやや冷たい風が吹き始める中、11:40にはハチクマのオスが2羽上空を飛び、11:45には今度はハチクマのメスと幼鳥が2羽並ぶように上空を通過しました。11:50にはなぜか右側のカラマツ林の上から現れたハチクマのメスが、全く逆方向に飛んで行きました。その後は12:00に眼下をトビが飛び、ややタカの出現が低調になったかと思うと、12:20には7羽のハチクマが谷間から湧き上がって旋回飛翔し、13:00にはこの日初となる30羽ほどのサシバのタカ柱が沸き上がり右側の稜線方向に流れて行くと、これを機に続々とタカ柱が出現し始め、13:10には30羽ほどのサシバ、13:25にも畳平方面から黒い雲が迫る中、同様に30羽ほどのサシバのタカ柱が現れ、14:30、そして14:45にも同様にサシバのタカ柱が出現していよいよこれぞ白樺峠といった雰囲気になり、最後を締めくくるように14:55には30羽ほどのサシバが我々の頭上で見事なタカ柱となって旋回上昇し、大きな円を描くかのように飛翔してくれ、その後は絡まった糸が一本一本ほどけていくかのように分かれると、最後は線を描くかのように直線飛行に変わり渡っていきました。そしてこの日は15:30にはタカ見の広場を離れ、15:50に白樺峠駐車場を出発して松本駅に向かいました。この日の公式記録はサシバ2317羽、ハチクマ228羽、全体の合計は2654羽とのことで、結果的には2日間共に4ケタ日となり大当たりの2日間となりました。

さて、今年の白樺峠は台風14号が接近してくる中での催行となってしまい、一歩間違うと総崩れも予想される最悪の状況ではありましたが、ご参加の皆様の熱意が台風を追い払ったかのように、松本駅到着時には一部で青空も見えていました。渡り途中の小鳥類がやや低調で残念ではありましたが、おかげさまで晴天時には観察がかなり厳しいライチョウも悪天候に誘われるかのようにあっさりと見ることができ、イワヒバリ、カヤクグリ、そして秋には最も見やすいホシガラスは期待通りにじっくりと姿を見ることができました。そしてこのツアーのメインでもある秋限定の白樺峠タカの渡りは台風一過の晴天での観察となり、2日目は総数2143羽、3日目は総数2654羽とW4ケタを達成する大きな成果を挙げることができました。かなり高い位置を飛行する個体もいましたが、時折低く飛翔する個体もいて、さまざまな秋の渡りシーンを見せてくれました。また20日にはクマタカが見られたほか、午後からは連続してタカ柱が上がり、最後は頭上を旋回飛翔してくれる圧巻のシーンで締めくくりました。白樺峠のタカの渡りはもう15年以上に渡って観察していますが、タカの渡りは同じシーンはたったの一度もなく、毎回、毎回全く違った感動を与えてくれます。今後も秋の定番としてタカ渡りを観察しにお出かけいただけましたら幸いです。今回観察したタカたちがまた春に無事に日本各地に渡ってきて、そしてまた秋に見事な渡りシーンを見せてくれることを祈りたいものです。この度はご参加いただきましてありがとうございました。

石田光史

ライチョウ 撮影:坂東俊輝様

 

サシバ 撮影:坂東俊輝様

 

ホシガラス 撮影:坂東俊輝様

 

クマタカ 撮影:坂東俊輝様

 

ジョウビタキ 撮影:坂東俊輝様

 

ノビタキ 撮影:坂東俊輝様

 

タカ柱 撮影:坂東俊輝様

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