【ツアー報告】タカ渡る白樺峠とライチョウが棲む畳平 2018年9月15日~17日

(写真:ハチクマ 撮影:なー様)

国内でのバードウォッチングが一休みになっていた盛夏の頃を過ぎると、いよいよ秋のタカ渡りの季節がやってきます。バードウォッチングにはある一定期間しか見ることができないものが多数ありますが、その代表と言ってよいのが秋のタカ渡りで、わずか半月ほどしか見られる期間がありません。ただ一方でタカ渡りは天候に大きく左右され、天候が悪いとほぼ見ることができないというリスクがあります。そのためツアー期間中はもちろん、ツアー前には毎日何回も何回も天気予報を見る生活となります。今回は出発数日前には16日、17日に晴れマークはあったものの予報が次第に悪くなってしまい、結局出発前日には晴れマークはなくなってしまいました。

15日、3連休の初日ということもあり、大変に混雑している新宿駅を予定通り出発。天気予報が芳しくないこともあり、車窓からの風景は終始曇り空で小雨が降る場面もありました。昼前に松本駅に到着後は現地集合のお客様と合流し小雨が降る中、まずは道の駅を目差しました。このツアーは3日間で企画し、旅程では初日に畳平、それ以降2日間を白樺峠で過ごすことになっています。ただタカの渡りが天候に大きく左右されることから天気が芳しくない日に畳平に向かうことが多く、今回は小雨が降っている状況だったことから、事前にお知らせした旅程通りにまずは畳平に向かうことにしました。ただ雨のため観察機材準備ができないことからひとまず今回お世話になる宿に向かうことにし、宿のロビーをお借りして観察機材準備を行い、それから畳平に向かうことにしました。幸い途中からは空はやや明るくなり、雨も気にならないほどになっていました。どんどん進むと時折ホシガラスの飛翔が見られ、登るに従って真っ赤なナナカマドの紅葉が見事でした。ただ間もなく到着というあたりからは風が吹き出し、霧も濃くなってきてしまいました。そのため到着後は30分ほど待機することにしました。マイカー規制中のため通常は路線バスで来るのですが、路線バスだとこうは行きませんが我々は幸い観光バスのため待機もでき幸いでした。待機中は観光センターからお花畑、さらには魔王岳と歩いてみましたがとにかく風が強いことに加え、視界がなく、また雨も降っていたことから残念ながら観察は諦めて乗鞍高原に戻ることにしました。乗鞍高原まで戻った後は少々時間をとって白樺峠のタカ渡り情報などを見てから一旦宿に戻りました。ただ風と霧は全くなく、雨も小雨程度だったことから宿周辺を歩いてみることにしました。ただ雨が上がったわけではないため小鳥たちの動きは芳しくなく、ようやくヒガラ、コガラ、エナガの混群に出会うことができたのみでした。夕食後はこのツアー恒例のタカ渡り識別講座を行ない、その後天気予報を見てみると予報が良いほうに変わり翌日は晴れマークがついていました。

16日、05:00に目を覚ますと外はすでに明るく、晴れていることがわかりました。この日は早朝探鳥を行いました。まずはこの時期の代表種であるエゾビタキが唐松に止まってフライキャッチを見せてくれ、その後はけたたましく鳴きながらアオゲラがやってきて楽しませてくれ、ゴジュウカラが器用に木の幹を登っていました。見る見る天気が良くなってきたことから周辺ではヒガラ、コガラ、シジュウカラ、コゲラ、エナガの混群が騒がしく、川ではマガモやカワガラス、モズ、そしてカケスがフワフワとした独特の飛翔を見せてくれました。またある場所ではここ数年、夏鳥として繁殖しているジョウビタキが見られたほか、オオルリのさえずりが聞こえたため見てみると、翼が青い今年生まれのオスの幼鳥の姿もありました。そして宿まで戻ってくるとマユミの実にキビタキがやってきていました。その後は朝食をいただき再出発し、この日は予定を変更して再び畳平に向かいました。乗鞍高原周辺が穏やかに晴れていたことから安心してしまっていましたが、現地に到着すると気温8℃。昨日とほぼ変わらない霧でしたが、風はそれほどでもなく雨も降っていませんでした。ひとまずライチョウの姿を求めて歩きましたが、驚いたことにこの日は山に登ることなく3羽のライチョウに出会うことができ、思わぬ形でその姿をじっくりと観察することができました。そのためこの日は比較的風を遮ることが可能な場所を歩きました。ここではイワヒバリがノコノコ歩きまわり、岩が転がっている場所では「シリリ、シリリ」とか細い声で鳴きながら岩の上を歩き回るカヤクグリ、最後はハイマツの実をせっせと集めるホシガラスを観察することができ2時間ほどで高山鳥4種を観察することができたため探鳥を終了して白樺峠に向かいました。到着すると予想外の晴天で駐車場からも渡って行くハチクマの姿が見えました。コガラやヒガラの声を聞きながら山道を20分ほど歩きタカ渡り観察を開始しました。我々のツアーではタカ見の広場のお好きな場所から観察していただけるようトラベルイヤホンを使用しています。以前はガイドの近くにいてくださいといった形での観察でしたが、観察と撮影ではポジションがやや違うこと、また単にお好きな場所で観察していただけるようにとの考えからこの手法となりました。受信機は性能が良いため基本的にはどこから観察していただいてもガイドの声を聞くことができるため、出現しているタカの位置や識別ポイントを全員で共有することが可能です。早速上空を見上げると見事な秋空を背景に次々にハチクマが渡り、規模は小さいながらも逆光側で数羽のハチクマとサシバが旋回しながら上昇するタカ柱も見ることができました。結局15:30には小雨が降りだしたことから予定よりも30分ほど早くタカ観察を終了することにはなりましたが、ハチクマの飛翔はかなりの数となり、全体的にはタカが飛ぶ高度が高かったですが何回か低く飛翔してくれたことからオス、メスの違いを見ることもできました。この日の公式カウントはサシバ422羽、ハチクマ616羽、その他を含めた総数は1074羽で見事4ケタ日となりました。この日も夕食後に講座を行いましたが、この日は主に小型ヒタキ類の識別講座を行ないました。

17日、この日の天気予報は曇り後晴れということで安心していましたが、そこはやはり山の天気です。早朝は一部で晴れ間は見えていましたが小雨が降っていたため早朝の集合時には少々待機していただき実際には予定よりも少々遅れて歩き始めました。この日もまずはエゾビタキを見ることができ、雨が上がるのに合わせるようにエナガ、ヒガラ、コガラの群れがやってきてシラカバで賑やかに騒いでいました。歩き始めると同様にカラ類が騒がしくしていたことから見ているとオオルリの幼鳥がやってきて、しばらくの間羽繕いをしたことから望遠鏡を使って観察することができました。自然保護センター付近ではサルが歩きまわる中、珍しくカケスが良い場所に止まり、木の幹をつつくアカゲラの姿も見られました。またこの日は10羽ほどのカケスの小群が騒ぎ立てていて印象的で、最後にはミズキの実にやってきたコサメビタキを見ることもできました。07:30から朝食をいただいた後は08:30に出発して白樺峠に向かいました。天気予報では曇りのち晴れでしたが、この時間にはすでに晴れ間が広がっていて期待が高まりました。タカ見の広場では09:30から観察を開始し10:00には早速ツミにモビングされるハチクマが飛び、周辺の林からはゴジュウカラ、コガラ、キバシリの声も聞かれました。10:15にはツミがかなり高い場所を通過し、10:20にはカラマツのてっぺんにエゾビタキが止まりました。10:35にはハチクマのオス、10:40にはタカ類以外の主役ともいえるハリオアマツバメの乱舞が見られました。11:00頃には複数のノスリがホバリングしたり急降下するような飛翔を見せ、11:10には小型のタカ類にモビングされながらクマタカが飛翔しました。11:45には再びノスリが比較的低い場所を飛び、12:20頃からは我々の上空をやや右寄りに進路をとったハチクマが複数飛翔しました。13:20にはようやく群れになった5羽ほどのハチクマが次々に上空を通過し、再び尾根を背景にクマタカが飛翔しました。そして13:40にはすっかり渡りの光景がなくなる中、数羽のサシバとハチクマが渡り、15:00くらいからは雲が多くなり風が冷たくなる中、15:30には荷物をまとめてタカ見の広場を後にしました。この日の公式カウントはサシバ125羽、ハチクマ170羽、その他を含めた総数は314羽でした。

毎年秋恒例の白樺峠でタカの渡りを観察するツアー。今季は3コース設定し、まずはその先陣を切る形で出発しました。出発前の天気予報が芳しくなく、一時は最悪のケースも想定しましたが、天気予報が比較的良い方向にはずれてくれ、2日目、3日目とタカ渡りの光景を見ることができました。やや位置が高かったこと、サシバが極端に少なかったのは残念でしたが、ハチクマは低く飛翔するシーンもありました。また条件は良くはなかったですがライチョウ、ホシガラス、イワヒバリ、カヤクグリの高山鳥4種、また秋めいてきた乗鞍高原では渡り途中のエゾビタキ、オオルリ、キビタキ、コサメビタキ、さらにはヒガラ、コガラ、エナガ、ゴジュウカラ、アカゲラ、アオゲラ、カケスなどに出会うことができました。来年以降も事前のタカ渡り識別講座、現地でのタカ渡り講座、またタカ観察ではトラベルイヤホンを使用して出現状況や識別ポイントをリアルタイムで案内することを基本にツアー企画したいと思います。タカ渡りは天候のリスクはありますが、同じシーンは2度ありません。毎回新しい発見や意外性のある出会いに期待してまたぜひお出かけください。この度はお疲れ様でした。

石田光史

ライチョウ 撮影:小林匠様

 

カヤクグリ 撮影:三井健様

 

ハチクマ 撮影:なー様

 

ノスリ 撮影:三井健様

 

エゾビタキ 撮影:なー様

 

カケス 撮影:三井健様

 

イワヒバリ 撮影:なー様

 

ホシガラス 撮影:三井健様

 

ライチョウ 撮影:なー様

 

ハチクマ 撮影:三井健様

 

関連記事

ページ上部へ戻る