【ツアー報告】九州縦断 出水と有明海 2019年1月21日~23日

(写真:クロツラヘラサギ 撮影:久野守正様)

冬の九州と言えば、すぐに思い浮かぶのがツクシガモ、クロツラヘラサギ、ズグロカモメの三種です。九州各地の沿岸部で観察されますが、本ツアーではメイン探鳥地のひとつ佐賀県東与賀の広大な干潟で見ることができます。また、もうひとつのメイン探鳥地である鹿児島県出水平野はツルの越冬地として有名で、マナヅル、ナベヅル、カナダヅル、クロヅルなど1万羽を超える個体数のツルを間近に見ることができ、明け方の空をバックに頭上を鳴きながら群舞する光景はバードウォッチャーならずともその迫力と美しさに圧倒されます。

21日、名古屋、関西からのお客様は予定通り順調に鹿児島空港に到着しましたが、東京からの便が約45分遅れで到着しました。ただ、皆様はいたって元気、メンバーの中にはお知り合いの方々もいて会話がはずみます。今シーズンの九州は例年になく暖冬で本格的な寒波がまだ1回しかやって来ていない状態です。ツアー開催の3日間についても穏やかな晴天が続く予報でした。早速、バスに乗り込み最初の探鳥地に向かいました。ここは海水と淡水が混ざり合う堤防沿いの湿地です。到着と同時に出迎えてくれたのは寝姿で佇むヘラサギ1羽とクロツラヘラサギ13羽の一群です。また数羽のツクシガモやマガモ、コガモその他カモ類も羽根を休めていました。昨年はアシ原にツリスガラがいて距離はあるものの目を楽しませてくれました。悪天候だった去年よりも今回はずっと条件が良いにもかかわらず、声も聞こえません。まずここで観察する予定だったので少し気落ちしてしまいました。他にはツバメの越冬個体、アシ原のたもとに寝ているタシギなどを観察しました。トイレ休憩し、川内川上流へ向かいます。現地に到着後、鳥が少ないとまず直観しました。昨年はヤマセミが見られたのに空振り。いるのはオオバンとキンクロハジロだけ。少し下流にショベルカーが入り河川工事中でした。これが原因か?ここでは上空を舞うイワツバメを観察しました。同地域内の他の場所も鳥の出が芳しくないため、予定を早めに切り上げて出水に向かうことにしました。出水市内に入ってくると周辺の刈田にツルの姿がちらほらと見え始め、車内では歓声が上がります。出水の干拓地は大きく分けるとツル観察センターのある西干拓と監視所がある東干拓の二つです。まずツル観察センターで現況を確認します。今季の最高羽数は2018年12月1日調査の14,286羽。平成9年度より21季連続で万羽ツルを記録したとのことでした。到着後、マナヅル、ナベヅルを観察し、すぐにクロヅルも発見しました。周囲の電線にはミヤマガラスの群れが連なってとまり、その中に少数ながら真黒なコクマルガラス幼鳥の姿も見られました。また、ホシムクドリ単独の小群も観察し、撮影隊は順光に緑やピンクに光り輝く地にハート形の白斑が散らばる美しい姿を連写していました。夕暮れの時間が迫っていたため、東干拓に移動しました。途中、枯れ木にとまるニュウナイスズメの群れを観察し監視所に到着。ここでやや距離があるもののカナダヅルも発見でき、第一日目にして目標のツル4種を達成できました。日が落ちると急激に冷え込んできたためホテルに向かいました。

22日、早朝探鳥のため6時にホテルを出発、夜明け前のまだ暗い空に煌々と輝くスーパームーン(大満月)と二つ並んだ金星、木星を車窓から眺めながらバスで東干拓に向かいます。東干拓ツル監視所に到着したものの人もツルももぬけの殻、いつもなら餌まきをしていて、多くのツルが集まっているはずです。嫌な直感が頭をよぎります。すぐに西干拓に取って返しました。ツル観察センターに到着しましたが、こちらも餌まきはまだ。「今日はやらないのか?」と心配していたところ7時過ぎに餌を積載した軽トラが到着し、ようやく餌まきが始まりました。餌がまかれた農道に数千羽のツルが大騒ぎをしながら群がります。このころになると背後の山の塒からミヤマガラスの大群が餌を求めて次々と飛来してきます。その中にコクマルガラスの姿もあり、ざっと見てもおそらく3桁を超えそうな数です。数は少ないながら白黒の成鳥も確認できました。他にも多数のマガモやオナガガモ、タゲリなどが集まってきて、それを狙ってオオタカ幼鳥が背後を徘徊していました。朝食のため一旦ホテルに戻り、荷物をまとめて出発。再度、東干拓監視所を目指しました。ここでは至近距離で運よくカナダヅルを観察、撮影できました。頭頂がきれいな赤いハート型、白いほほ、ふじ色がかったグレーの体色、翼に銅褐色の斑が点在しとても美しいツルです。さらに頭上を飛び回るタヒバリやマミジロタヒバリも観察。農道少し奥の溜め池周りには数羽のヘラサギやタゲリ、ハマシギの群れが休み、3羽のヒシクイも見ることができました。十分にカナダヅルを撮影でき満足気分で出水を後にしました。この後、バスの中でやや早めの昼食お弁当を食べるお客様もいらっしゃいました。12時10分頃、次のポイントに到着、まだ満潮の状態でしたがすぐに堤防沿いに探鳥を開始しました。左手に広がる刈田とクリーク沿いの枯草、右手の海上に注意しながらゆっくりと進みます。クリーク沿いの枯草からオオジュリンやホオジロ、笹薮からは数羽のニュウナイスズメなどが飛び出します。海上には昨年少なかったズグロカモメやウミアイサが見られました。鳥が集まる堤防西端近くに到着する頃にはちょうど潮が引き始め、シロチドリ、ダイゼンやハマシギの群れ、ズグロカモメ、ユリカモメ、セグロカモメなどが次々と飛来してきました。またハヤブサの若鳥が数度出現し、一度は近くの岩場に降りて何かをついばんでいる姿を観察しました。ここでも中洲の岩場にクロツラヘラサギ十数羽が羽を休めていました。遠浅の有明海沿岸の特徴ですが、潮が引き始めるとあっという間に波打ち際が遠ざかって行きます。干潟のシギチドリやツクシガモなどを見る場合は事前に満潮時刻と潮位を調べておくことが必須です。この時間を間違えると数キロ先まで潮が引き、全く鳥が見えなくなってしまいます。もちろんこのツアーでは沿岸各地の詳細な潮汐データを調べた上で現地での満足のいく探鳥ができるようにピンポイントで運行計画を組んでいます。昼食後出発、一路国道を北上し15時過ぎには次のポイントに到着しました。トイレ休憩の後、干拓地に移動します。ここでは大きな枯れ木に群れるホシムクドリやセイタカアワダチソウにとまるホオアカ、数羽のカササギなどを観察しました。ここは昨シーズン、イエスズメとトラフズクが越冬したのですが工事のため完全に消失していたのには驚きました。そして残念な気持ちを感じながらこの日の探鳥を終えました。道中、バスの中で二日間の鳥あわせを実施。18時50分頃に佐賀市内のホテルに到着し19時30分から遅めの夕食となりました。

23日、この日も朝から快晴です。今日は出水と並んでもうひとつのメイン探鳥地である佐賀県東与賀(ひがしよが)干拓を目指します。まずは市内の川で探鳥。ここではヨシガモ、タゲリ、トモエガモなどを観察。昨年は見られませんでしたが、遠目ながら運良く20羽以上のトモエガモを見ることができました。また、川沿いによく繁ったアシ原があり、ツリスガラに期待しましたが何故かここでも確認できませんでした。次に行く東与賀の満潮時刻に遅れる訳にはいきません。トモエガモに後ろ髪を引かれるようでしたが、意を決して8時45分、やや早めに出発します。予定よりも30分早く9時10分頃には東与賀干潟公園に到着できました。トイレ休憩後、すぐに潮の様子を見に行きます。最も早く潮が満ち始める干潟南東端にちょうど潮線が届いたばかりの様子でホッとしました。ただ、ここで安心しているわけにはいきません。かなりのスピードで潮が満ちてくるからです。今日は大潮11時30分満潮、潮高530cmです。満潮時には干潟との境にある柵の内側まで水浸しになる潮高。早速、堤防から下に降り北西側に移動しながらシギチドリを観察していきます。潮が満ちてくるのに合わせ、たくさんのシギチドリが観察する私たちの方にどんどん近づいて来ます。常時、ダイシャクシギやアオアシシギ、ダイゼン、ハマシギ、シロチドリなどシギチドリの声がBGMとして流れていてたいへん賑やか中での観察です。また、アカアシシギ、ツルシギ、オオハシシギなど通常淡水域で見られるシギチドリが干潟にいるのもここの特徴です。1,000羽以上のツクシガモや数百羽単位のズグロカモメなど個体数も尋常ではありません。全てを圧倒してしまう大自然の迫力がここ東与賀干潟の魅力です。移動しながらの観察と撮影が続きます。数十羽のヘラサギ、クロツラヘラサギが集まってきます。ミヤコドリも4羽発見。3羽のオオハシシギを追って数百m程移動した10時半過ぎには潮が柵を越え足元まで迫っていました。潮高の満潮時、干潟にいられなくなったシギチドリの群れは通常堤防直下の石畳に移動し羽根を休めるので、堤防上から見下ろすように観察できます。理由はわかりませんが、今日は飛び立った群れがそこに降りてきませんでした。こうして東与賀干潟の観察が終了しました。上空には隊列を組んだダイシャクシギとホウロクシギが鳴きながら別れを惜しむように飛び回っています。最後にわずかなアシ原でようやくゆっくりとツリスガラ、オオジュリンを観察・撮影できました。その後、全員バスに戻り感動と余韻に浸りながら格別に美味しい昼食のお弁当を食べました。12時20分予定通りにこのツアー最後の探鳥地である今津湾の河口に向け出発。途中、トイレ休憩を含め約2時間で河口に到着。堤防上は思いのほか風が強く、今回ツアーで初めて寒さを感じました。僅かに残った中州にツクシガモ、ズグロカモメが数羽休んでいました。ヘラサギ、クロツラヘラサギの塒は従来よりも上流に移り、遠くに寝姿を確認。沖合には数羽のホオジロガモが潜水採餌を繰り返していました。また堤防内の溜池ではカワセミやホシハジロの群れを観察しました。そして15時30分、予定通り福岡空港に向け出発しました。

最後になりますが、今回は好天に恵まれ気温も暖かでとても快適な3日間でした。また、最終的に98種類の鳥たちにも出会うことができました。今回のツアーのメイン探鳥地のひとつ鹿児島県出水ではマナヅル、ナベヅル、クロヅル、カナダヅルなど4種類の一万羽を超えるツルに加えオオタカ、ミヤマガラス、コクマルガラス、ホシムクドリ、ニュウナイスズメなどを観察。もう一方のメイン探鳥地である佐賀県東与賀では、冬の九州を代表するツクシガモ、クロツラヘラサギ、ズグロカモメの他にダイシャクシギやダイゼン、ハマシギ、ミヤコドリなど多数のシギチドリ類を観察することができました。鹿児島県出水平野と佐賀県東与賀干拓、冬の九州を代表する二つの探鳥地は何度訪問しても大自然の美しさと圧倒的な数の迫力で見る者に迫ってきます。この感動をもっとたくさんのバードウォッチャーに味わっていただきたいと感じています。

波多野邦彦

ツリスガラ 撮影:高木信様

 

カナダヅル 撮影:須崎明男様

 

クロツラヘラサギとツクシガモ 撮影:久野守正様

 

クロツラヘラサギ 撮影:高木信様

 

ズグロカモメ 撮影:須崎明男様

 

ヘラサギ 撮影:久野守正様

 

コクマルガラス 撮影:高木信様

 

ニュウナイスズメ 撮影:須崎明男様

 

ハマシギの群れ 撮影:久野守正様

 

ホシムクドリ 撮影:高木信様

 

クロツラヘラサギ 撮影:須崎明男様

 

マナヅル 撮影:久野守正様

 

ナベヅル 撮影:高木信様

 

ミサゴ 撮影:須崎明男様

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