【ツアー報告】夏の小笠原 硫黄島3島クルーズとメグロの島・母島 2019年7月2日~7日

(写真:シラオネッタイチョウ 撮影:高木信様)

年に一度の海鳥祭りと呼んでいる小笠原海運特別航路、硫黄島3島クルーズ出港日がいよいよやってきました。小笠原に行くためにはおがさわら丸に24時間乗船するしかなく、東京竹芝と小笠原父島は定期航路として5泊6日の周期で結ばれています。ただ今回の特別航路は定期航路ではないため最少催行人員約100名が設定され、硫黄島3島クルーズ参加者が最低100名ほど必要です。そのため我々もなんとか1名でも多くと募集をかけ、今回は37名のお客様にご参加いただきました。昨年は参加者が100名ギリギリといった感じでしたので心配でしたが、今回は事前に硫黄島がテレビ番組で紹介されたことなども手伝って楽々催行になったようでした。また心配された台風の発生もなくひとまず出港となりました。

2日、東京は梅雨空が続いていてこの日も早朝は霧雨が降っていて肌寒い印象でした。ただ集合時間の10:00には日差しがある中、資料配布、トラベルイヤホン配布、そして全体的な連絡事項をお伝えしてから乗船し、おがさわら丸は予定通り11:00に小笠原父島に向けて出港しました。東京湾内ではコアジサシの飛翔が見られ、約3時間ほどで東京湾を出ましたが海上はモヤがかかり視界不良といった感じでした。やや風が出る中、オオミズナギドリが飛びはじめ、その後はアナドリが現れました。三宅島付近まで来ると曇り空から小雨が降り始め、次第にうねりが大きくなってきましたがセグロアジサシが飛び、その後は海水がしぶきとなって飛んでくる状況でしたが、カツオドリが船首を横切っていきました。ただその後は海況はさらに悪化してしまい、オオミズナギドリの飛翔を見ながら18:30に観察を終了しました。

3日、この日はこの航路の重要海域のため早朝にデッキに向かいました。心配された天気はそれほど悪くはなく曇り空から晴れ間が見えていました。早速、シロハラミズナギドリ、オナガミズナギドリ、アナドリが連続して出現し、その後は空が青くなり海が小笠原カラーになってくる中、なんとアカオネッタイチョウが着水から飛び立ち、デッキがどっと沸き、シロハラミズナギドリも間近を飛翔して翼下面の美しい模様を堪能できました。その後はアナドリが珍しく船体付近を飛び、夏には珍しいオオシロハラミズナギドリが飛翔しました。その後はクロアジサシがスイスイと飛び、着水していた数羽のアナドリが餌を食べていました。また、カツオドリが船尾方向から接近して、真っ白なアカアシカツオドリも接近して楽しませてくれました。その後は30羽ほどのオナガミズナギドリが着水から飛び立ち、再びクロアジサシが飛び、ブイにはカツオドリが止まっていました。そして細かい羽ばたきをしながらセグロミズナギドリが飛び、再びデッキ上は盛り上がりました。そしておがさわら丸は青い空と青い海に迎えられながら父島二見港に着岸しました。着岸後は下船していただき、父島滞在中に不要なものを倉庫に預けてから待合室にご集合いただき、その後は自由行動組と南島クルーズ組に分かれて行動しました。南島クルーズでは穏やかな海況の中、美しい白砂が海底を埋め尽くす南島付近を航行しながら上陸し、抱卵中のアナドリやオナガミズナギドリを間近に観察し、付近で繁殖中のカツオドリの親子を見ることもできました。言うまでもなく美しい扇池やヒラベソカタマイマイの半化石などを堪能し、帰りには二見港の入り口付近で求愛行動中のミナミハンドウイルカに出会うこともできました。その後は父島待合室にて独自の硫黄島クルーズの解説を1時間ほど行ってから乗船し、おがさわら丸は南硫黄島に向けて出港しました。

4日、いよいよこのツアーのメインである硫黄島3島クルーズの朝、早朝にデッキに出ると、快晴そして穏やかな海況の中、船首方向にただそこにあるだけで独特の存在感を誇る南硫黄島が見えてきました。意外だったことはむしっとした感じが全くなく、そのため結露による機材への影響はないように感じたことでした。南硫黄島はいつも山頂付近には雲がかかっていますが、この日は山頂まではっきりと見え驚きました。無数のアナドリ、オナガミズナギドリ、カツオドリが乱舞する中、南硫黄島が接近してくると海面付近をスイスイ飛ぶセグロミズナギドリが増えだし、その数は目を疑うほどでした。そして島を見ると白い鳥がヒラヒラ飛んでいるのもしっかりと見ることができました。これが全てアカオネッタイチョウかと思うとまたまた驚きでした。周回に入ると南硫黄島までの距離が近いこともあってか海鳥たちはどれもリアルに見ることができ、数羽の群れでシロアジサシも飛翔していました。そしていつの間にか3羽のシロアジサシがかなり接近して飛翔したため、デッキ上はどっと盛り上がりました。その後、最上階まで上がると乱舞するカツオドリの数に驚かされましたが、しばらくするとアカオネッタイチョウがおがさわら丸の上空を何度か飛翔し、青空を背景に飛翔する真っ白いアカオネッタイチョウの姿は印象的でした。おがさわら丸は南硫黄島を2周すると、その後は硫黄島に向けて舵を切りました。今回はまずセグロアジサシの出現が多く、硫黄島に向かう途中にも何個体も見ることができました。硫黄島では強烈な日差しの中での探鳥となりましたが、とにかく全体的にアジサシ類の数が多いことに驚かされ、さらにはなんとシロアジサシが飛び、またまた驚かされました。繁殖地である監獄岩を通過するとアジサシ類の乱舞が見られ、クロアジサシだけでなく、かなりの数のセグロアジサシが見られたことは驚きでした。結局、ヒメクロアジサシと思われる個体に出会うことはできませんでしたが、シロアジサシ、セグロアジサシが見られ、アジサシ類の個体数が異常に多いことが驚きでした。硫黄島を離れるタイミングで恒例の献花式と黙祷がありました。その後はいよいよ北硫黄島に向けて進みました。北硫黄島でのメインはシラオネッタイチョウでこのツアーでは毎回かなり観察に苦労しています。理由は個体数が少ないことと、アカオネッタイチョウのように船に接近してくれないことです。まず驚いたことはシロアジサシが比較的多く飛翔していたことです。シロアジサシは過去、南硫黄島でしか観察されておらず、今回はこれで3島全てで観察したことになりました。またアカオネッタイチョウも南硫黄島に負けないくらいの数が見られこれも驚きでした。そして1周目が終わろうかとした時、いつものようにやや高い位置を飛翔する2羽のシラオネッタイチョウが見られ、しばらく飛翔してくれたことからじっくりと観察することができました。また2周目にもシラオネッタイチョウは観察でき、驚いたことにおがさわら丸の上を飛翔してくれたことから、青空を背景に真っ白く長い尾羽を見る幸運がありました。北硫黄島から父島に向う途中の航路はなぜかミズナギドリ類が全く見られず、ただカツオドリたちがずっとおがさわら丸を追ってきてくれたため、しばらくの間はカツオドリの捕食行動を見ながら進みました。ただおがさわら丸が母島付近を通過した頃からはオナガミズナギドリとアナドリの飛翔が見られはじめ、クロアジサシも加わって花を添えてくれました。おがさわら丸は定刻の18:00に父島二見港に戻り、このツアーの最も熱い日は終わったのでした。

5日、この日は母島に向うため朝食をいただき、ははじま丸で母島に向いました。早朝から見事な快晴でとにかく暑くなりそうな予感がしました。航路上はあまり海鳥は見られず、僅かにアナドリとオナガミズナギドリ、カツオドリが見られたのみでした。母島到着後は各宿に行っていただいた後、昼食の時間としてから探鳥に出かけました。母島での探鳥に関してはあらかじめ探鳥可能な場所を地図にて示し、それ以外の範囲、特に集落付近での探鳥を禁止にしています。この日は林に向かい、まずは漁港付近でキョウジョシギが見られ、海岸ではムナグロの姿もありました。坂道を上るとメジロ、メグロ、ハシナガウグイスの声が聞こえ、さらに畑ではアカガシラカラスバトに出会うこともできました。さらに進むとパパイヤの木があり、そこで待っているとメジロとメグロがやってきて、その姿を見せてくれました。その後はあまりの暑さのため商店まで戻って30分ほどの休憩をとり、ガジュマルの木陰に座って休みながら水分補給をしました。休憩後は海岸まで歩き、途中では再びメグロが現れ、到着後はアオウミガメの姿を堪能して現地にて解散しました。この日は母島らしい突き抜けるような青空が広がり、とにかく暑い1日でした。

6日、この日も母島は快晴。早朝から探鳥するため母島観光協会前にご集合いただき、この日も林に向けて歩き始めました。まだまだ早朝ながら陽射し強く、とにかく暑い状況でした。途中の海岸ではイソヒヨドリの姿があり、坂を上るとメジロ、メグロが出迎えてくれました。足を止めて見ているとメグロのつがいと思われる2羽が求愛給餌を行い、メジロは枝先で虫を捕らえていました。この日もアカガシラカラスバトは畑をノコノコ歩いていて、その姿をじっくりと観察することができました。また帰りにはハシナガウグイスが枝先で歌い、ヒナを連れたメジロも見られ、特にヒナの姿は印象的でした。そして最後は鉄塔に止まっているオガサワラノスリをじっくり観察して、それぞれの宿の朝食の時間に合わせて宿に戻りました。その後は母島観光協会前にご集合いただき昼食の後、ははじま丸は母島を出港して父島に向いました。航路上はとにかく穏やかで早速数羽のカツオドリが船を追い、アカアシカツオドリの亜成鳥もやってきて楽しませてくれました。またアナドリの群れが舞い上がったり、オナガミズナギドリとクロアジサシの姿も比較的多く見ることができました。そしてははじま丸は父島に到着し、その後は帰りのチケットを配布してからいよいよ竹芝桟橋に向けておがさわら丸は15:00に出港しました。出港時には恒例の小笠原太鼓の音が響き、出港後は「世界一のお見送り」と称される見送り風景に見入っていました。そして見送りが終わると同時にミナミハンドウイルカがジャンプして盛り上げてくれました。その後、海上にはアナドリが舞い、オナガミズナギドリ、アナドリ、クロアジサシが一斉に舞い上がってしばらく乱舞していました。その後は比較的近い距離をオナガミズナギドリが飛び、3羽のセグロアジサシが船を追うように飛翔しました。そして夕方にはややうねりが出てくる中、50羽ほどのカツオドリが高い位置を乱舞しながら魚を狙っていました。そして最後にクロトウゾクカモメが船尾方向にスーッと飛翔していきました。天気予報によると深夜からは海況が悪くなるそうで揺れが心配でした。

7日、大きなうねりや揺れが心配されましたが心配されたほどのことはなく早朝にデッキに出ると空はどんよりとしていたものの所々にお晴れ間が見えていました。みなさんお疲れのようでデッキ上は閑散としていましたが早速アカオネッタイチョウがヒラヒラと飛翔しました。そしてこの日もアカアシカツオドリの亜成鳥がどこからともなくやってきて、おがさわら丸を追うように飛翔してはトビウオを捕食していました。この日に見られたアカアシカツオドリの亜成鳥は上面の模様がここまでで見られた個体とはまた違っていて興味深いものでした。その後は次第にうねりが大きくなる中、オオミズナギドリの個体数が次第に増えていました。すると船首方向から下面が黒いミズナギドリ類が接近してきました。この個体は比較的船体脇をゆっくり飛翔したことから顏の白さや翼下面の白い模様、さらには上面の羽軸の白さまでしっかり見ることができ、カワリシロハラミズナギドリ暗色型と判断できました。小笠原航路では9月~11月に比較的観察例がありますが、夏季に見ることは稀で驚かされました。八丈島沖までくるといよいようねりが大きくなり、波間を縫うようにオオミズナギドリが飛び、時には50羽程の群れが一斉に飛び立つ様子も観察できました。またよく見るとアナドリも風に飛ばされるように飛翔していました。そして海水がしぶきとなって飛んでくるようになった。その後は再びカワリシロハラミズナギドリが飛翔し、大きなうねりの中を飛翔するオオミズナギドリ、アナドリを見ながら進み、遠くに房総半島が見え始めたころにはクロアシアホウドリが飛翔してこのツアーを締めくくってくれました。そしてデッキにて鳥あわせを行ってツアーを終了しました。

過去、台風接近があったため催行直前まで心配が尽きないのですが、無事催行され一安心しました。今回の硫黄島3島クルーズははじめての出来事が多く、驚きが多いクルーズでした。まずアカオネッタイチョウの個体数が多かったことは印象的でした。過去、南硫黄島が主でしたが今回は北硫黄島でもかなりの数が見られました。またシロアジサシが3島全てで観察できたことも驚きで、過去、それほど目立った存在ではなかったセグロアジサシが全行程を通して目立ったことも驚きでした。そしてシラオネッタイチョウは過去、全く船に近づいたことがなかったのですが、今回はほぼ真上を飛翔し、これも大きな成果だったと思います。また小笠原を代表するミズナギドリのセグロミズナギドリがじっくり見られ、オオシロハラミズナギドリやカワリシロハラミズナギドリにも出会え、「小笠原の海鳥」というくくりでは、この硫黄島3島クルーズ以上のツアーはないと言い切れるでしょう。そして我々の海鳥観察ツアーではすっかりお馴染みになっている「トラベルイヤホン」の効果についても高い評価をいただけたことも幸いでした。今後も出現した海鳥類の識別ポイントや位置、距離感などの状況をデッキにいる全員で共有しながら観察するという、今まではムリと思われたことを当たり前にしながら観察可能なツアーを企画して参ります。この度は長い船旅お疲れ様でした。またどこかの海域でご一緒できますことを楽しみにしております。

石田光史

シラオネッタイチョウ 撮影:上野達雄様

 

カツオドリ 撮影:亀元賢紀様

 

アカガシラカラスバト 撮影:鶴田学様

 

セグロミズナギドリ 撮影:宅間保隆様

 

シロアジサシ 撮影:大坪昭允様

 

オナガミズナギドリ 撮影:村瀬隆司様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:高木信様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:上野達雄様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:鶴田学様

 

カツオドリ 撮影:宅間保隆様

 

アカアシカツオドリ 撮影:大坪昭允様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:村瀬隆司様

 

アカガシラカラスバト 撮影:高木信様

 

ハシナガウグイス 撮影:宅間保隆様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:大坪昭允様

 

セグロアジサシ 撮影:村瀬隆司様

 

メグロ 撮影:高木信様

 

シラオネッタイチョウ 撮影:宅間保隆様

 

カツオドリ 撮影:大坪昭允様

 

クロアジサシ 撮影:村瀬隆司様

 

シロアジサシ 撮影:高木信様

 

クロアジサシ 撮影:宅間保隆様

 

クロアジサシ 撮影:大坪昭允様

 

アカオネッタイチョウ 撮影:村瀬隆司様

 

セグロミズナギドリ 撮影:高木信様

 

セグロアジサシ 撮影:宅間保隆様

 

メグロ 撮影:大坪昭允様

関連記事

ページ上部へ戻る