【ツアー報告】落石クルーズで夏羽のエトピリカに会いたい! 2022年7月6日~8日

(写真:ツノメドリ 撮影:小林浩様)

鳥の観察会の道東ツアーでは必ずといってよいほど乗船してきた落石クルーズ。実はこの落石クルーズとは営業運行以前からお付き合いさせていただいており、試験運行時の乗船やその後の意見交換会にも出させていただいたことから何かと思い入れがあります。その後、営業運行が始まってからも道東ツアーではこの落石クルーズをツアーに入れるようにして微力ながら応援してきました。この落石クルーズの素晴らしさは見られる海鳥の顔ぶれを見ていただければ一目瞭然ではありますが、実はもっとすごいことがあるのです。それは実際に毎日毎日忙しく漁をされている漁師さんが海鳥たちに興味を持って運行されているということです。言うまでもなく基礎的な識別は問題なくこなし目が良いことも際立っています。今回は台風4号が発生してしまい、直前には熱帯低気圧に変わったものの東に進路をとったことから心配が尽きませんでした。そのため8日の乗船が厳しそうな場合は7日に2回クルーズに乗船できるよう相談した上での出発となりました。

6日、連日の猛暑の東京都内から羽田空港に移動しましたがこの日はやや風が強く、熱帯低気圧の影響を感じずにはいられませんでした。空港に到着する前から機材が視界不良のため天候調査になっていたことからしばらくは状況を見るという形になりましたが、ひとまずいつもの手順で進め、搭乗待合室に進むことにしましたが、幸いにもこの頃には条件付きながら現地に向かうことが決まりました。飛行機は無事に出発し、思いのほかあっさりと目的地の中標津空港に到着。確かに周辺は霧が立ち込めていて霧雨模様といった感じでした。到着後は観察機材の準備をしていただいてからバスに乗り、最初の探鳥地に向かいました。どんよりとした空模様で気温は低く、東京都内の半分以下ではないかといった感じでした。現地はエゾカンゾウの黄色い花がきれいに咲き、ハマナスの花も見ごろといった感じでした。陽気のせいか原生花園ではこれといった小鳥の姿はなく、堤防に止まっているオジロワシ、湿地帯に佇むマガモ、そして各所でエゾシカの姿を見てから移動しました。ここではタンチョウのヒナが見られていたことから立ち寄ってみると、もう親鳥とそう変わらない大きさに育った2羽のヒナとそれを見守るように餌を探すつがいのタンチョウを見ることができました。それでなくともヒナを育てることはおそらくは難しいことでしょうが、そんな中で2羽のヒナを大きく育たせていることには驚きました。驚かせないようにバス車内から一定の距離を保ってしばらく観察してからホテルに向かいました。

7日、早朝から根室の代名詞である濃霧が立ち込める中、朝食前に探鳥に出かけました。駐車場でバスを降りると早速、エゾセンニュウが鳴き、アオジが地上を歩いて餌を探していました。やや視界悪かったですが、この日の朝はベニマシコに頻繁に出会うことができ、ナナカマドに止まって鳴く真っ赤な2羽のオス。その後も同じ場所を行ったり来たりしながら頻繁に針葉樹に止まるつがいと思われる2羽を見ることができました。また草原ではカッコウのさえずりが聞え、ソングポストに止まってさえずり続けるコヨシキリ、林の中では巣だったばかりのヒナを連れたヒガラ、ハシブトガラ、そして嘴がブルーに変わった夏羽のシメも見ることができました。また池ではオオセグロカモメとウミネコが水浴びを繰り返し、見上げるとオオジシギが頻繁にディスプレイフライトを繰り返していました。探鳥後は一旦ホテルに戻って朝食をいただき、その後は再度出発して落石漁港に向かいました。この日はまだまだ霧がかかってはいましたが時間と共に霧はうすくなってきていて期待が持てる状況に変わってきていました。天気予報は曇りでしたが波は0.8ⅿ、風は3ⅿとのことでした。到着後は乗船準備にとりかかっていただき出航しました。まだまだ海上には霧がかかってはいましたが気になるほどではなく、波も穏やかだったことから視界は十分といった感じでした。まずは海上に点々と群れているウトウを見ながら進み、いつしか船の周囲をフルマカモメが飛んでいました。この日はユルリ島の南側の海域を比較的じっくりと探しながら進めました。するとまずはエトピリカの非生殖羽個体に出会うことができ、立て続けにもう1個体、エトピリカの非生殖羽個体を見ることができました。またウミスズメが2羽のヒナを連れて海上を移動している珍しいシーンも見ることができ、付近にはカンムリウミスズメの姿もありました。その後は突然、クロアシアホウドリが船の周囲を飛び始め、気が付くと船尾に着水したことから巨大なその姿を間近に見る機会がありました。さらに進むと少々霧がありましたが次第にケイマフリの姿が目立ち始め、繁殖行動中なのか「ピピピピッ」と鳴きながら飛び回る姿も見られました。その後はモユルリ島の南側まで進み、岩礁で餌を探している10頭ほどのラッコを見ることもでき、最後は今年、その数を一気に増したチシマウガラスを観察しました。霧がかかっている状況でなかなかクリアに見ることができませんでしたが10個体ほどを見ることができこの日のクルーズを終えました。下船後の午後の時間は原生花園に向かいました。とにかく霧が濃いことで知られている場所ですがこの日は霧はほとんどなく、次第に青空が見えてきました。まずは展望台に向かい、ここでは電柱に止まって鳴いているオオジシギ、さらには原生花園の手すりに止まって鳴いているノゴマを見ることができましたが、鳥の個体数が今一つだったことから移動しました。到着時はまだまだ視界がある中、周辺からはオオジュリン、シマセンニュウ、ノゴマのさえずりが聞こえ、オオジュリンは遊歩道脇のシシウドに止まって単調なさえずりを繰り返していました。しばらくすると複数のシマセンニュウがさえずり出し、同様にシシウドに止まってさえずる姿を見ることができました。観察しているといつの間にか深い霧に包みこまれたことから別のエゾカンゾウ群生地に移動しました。ここはおそらく北海道で一番エゾカンゾウが美しく咲き乱れている場所で、この日も霧がなかったせいか視界の全てが黄色になるほどの景色が広がっていました。ここではシマセンニュウが低木でさえずっていたほか、遠くをタンチョウのつがいが歩いていました。その後はわずかに時間があったことから近くの湿地に立ち寄り、ここでは真っ赤なベニマシコと一緒に行動しているメスのベニマシコを見てこの日の探鳥を終えました。

8日、この日の早朝も相変わらず霧が立ち込めている中、朝食前に探鳥に出かけました。前日に比べると霧が濃い印象でしたが池ではこの日もオオセグロカモメとウミネコが水浴びを繰り返し、湿原ではシマセンニュウがさえずっていました。またアオジがソングポストと思われる木でしばらくの間、さえずっていました。芝生広場までくると遠くからカッコウ、ツツドリの声が聞こえ、この日も前日と同じ枯れ木でコヨシキリが元気よくさえずっていてノビタキのメスやカワラヒワの幼鳥も見られました。そして戻る途中ではようやくノゴマの姿がありましたがすぐに飛び去ってしまいました。探鳥後は一旦ホテルにて朝食をいただき、その後は昨日同様に落石漁港に向かいました。この日も時間と共に霧が薄くなってきている感じで落石漁港に到着する頃には空は次第に明るくなってきていて海上の視界はそれほど悪くありませんでした。そしてこの日も生殖羽のエトピリカを探しました。出航直後はややうねりがある中を進み、点々と浮かんでいるウトウをチェックしながら進みました。この日は海上に浮いているウミスズメ類の個体数が前日よりも少ない印象でしたが、前日同様に2羽のヒナを連れているウミスズメのつがいに出会うことができました。海鳥がヒナを連れている状況を見ることは極めて稀で、親鳥がヒナを呼ぶ声が聞えたり、小さいながらも潜水したり海面を走るように移動するヒナの貴重な姿を見ることができました。その後はウトウよりもケイマフリの姿が増え、それほど警戒する様子もなくのんびりと浮いている姿を観察したり、飛翔した際に見られる真っ赤な足も見ることができました。またこの日は1羽のハシボソミズナギドリが何回も見られ、着水したり飛翔したりと船の間近で見ることができました。そしてこの日はこの海域でも極めて稀に観察例があるツノメドリの非生殖羽個体に出会う幸運があり、意外なほど間近に観察することができました。ただモユルリ島付近では霧が濃くなりだし、霧の中を航行する状況になってしまいました。それでもさらに進むとやや視界があり、この日もラッコを間近に見ることができました。また最後には霧が薄くなる中、チシマウガラスも見ることができ、ようやく青空が広がってくる中、この日のクルーズを終えました。

熱帯低気圧が接近してくる中での出発となり、また往路は中標津空港の濃霧による条件付き運行とさまざまな心配が尽きないツアーでしたが、まずは予定通り落石クルーズに2回乗船することができ幸いでした。クルーズ自体は2回とも海況は良く、概ね視界も良かったことから大きなチャンスでしたが、結果的には生殖羽のエトピリカに出会うことができず本当に残念でした。ただこの海域ではエトピリカよりも出会いの頻度が低いツノメドリに出会うことができ、生殖羽個体ではなかったですがエトピリカにも2回出会うことができました。ほかにもケイマフリやウトウ、ウミスズメの親子、カンムリウミスズメ、クロアシアホウドリ、フルマカモメ、ハシボソミズナギドリ、ラッコ、そして生殖羽のチシマウガラスがツアーを締めくくってくれました。クルーズ以外にもタンチョウの親子やオジロワシ、原生花園ではノゴマやオオジュリン、シマセンニュウ、ベニマシコ、オオジシギなどを楽しむことができました。落石クルーズは極めて特殊なクルーズですが、海鳥好きのバードウォッチャーにとっては極めて貴重なクルーズです。冬季にはウミバトをはじめ、コウミスズメ、エトロフウミスズメといった国内観察が極めて難しい小型ウミスズメ類が高確率で見られます。ぜひまた季節を変えてご乗船ください。この度はご参加いただきましてありがとうございました。

石田光史

タンチョウ 撮影:上田恵様

 

ツノメドリ 撮影:向井幸雄様

 

ラッコ 撮影:芝田恵美様

 

オオジシギ 撮影:小林浩様

 

ベニマシコ 撮影:上田恵様

 

エトピリカ 撮影:向井幸雄様

 

エゾカンゾウ 撮影:芝田恵美様

 

シマセンニュウ 撮影:小林浩様

 

ウミスズメの親子 撮影:上田恵様

 

オオセグロカモメ 撮影:向井幸雄様

 

霧多布岬 撮影:芝田恵美様

 

ケイマフリ 撮影:小林浩様

 

ケイマフリ 撮影:上田恵様

 

キタキツネ 撮影:向井幸雄様

 

ハシボソミズナギドリ 撮影:芝田恵美様

 

ノゴマ 撮影:小林浩様

 

クロアシアホウドリ 撮影:上田恵様

 

クロアシアホウドリ 撮影:向井幸雄様

 

タンチョウ 撮影:芝田恵美様

 

チシマウガラス 撮影:小林浩様

 

ウミスズメのヒナ 撮影:上田恵様

 

オオジュリン 撮影:向井幸雄様

 

ウトウ 撮影:小林浩様

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